融資希望額の決め方|必要資金を計算する方法と具体例
融資を申し込む際、「いくら申し込めばよいのか分からない」と悩む経営者は少なくありません。
少なめに申し込むと、融資を受けた後も資金が不足し、短期間で追加融資が必要になる可能性があります。一方、必要以上に大きな金額を申し込んでも、資金使途や計算根拠を十分に説明できなければ、希望額の妥当性を確認されます。
融資希望額は、借りられそうな金額から決めるのではなく、必要な支出、入金予定、自己資金、最低限残しておきたい資金などを積み上げて決めることが重要です。
この記事では、運転資金と設備資金に分けて、融資希望額を計算する方法を具体例付きで解説します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、融資の承認や希望額どおりの借入れを保証するものではありません。融資金額、返済期間、金利、必要書類などは、金融機関、信用保証協会、融資制度、申込者の状況によって異なります。実際の申込みについては、金融機関や専門家へご相談ください。
この記事の要点
- 融資希望額は「借りられる金額」ではなく「必要な金額」から計算します
- 運転資金では、資金が最も減少する時点の不足額を確認します
- 設備資金では、見積金額だけでなく、設置費や導入後の運転資金も確認します
- 自己資金をすべて使い切る前提にすると、融資後の資金繰りが不安定になる可能性があります
- 予備資金を含める場合は、金額と理由を明確にします
- 融資希望額、資金使途、資金繰り表、見積書の数字を一致させます
目次
- 融資希望額はどのように決めるのか
- 多めに申し込めばよいとは限らない理由
- 少なすぎる申込みにも注意が必要
- 運転資金の希望額を計算する方法
- 運転資金の具体的な計算例
- 設備資金の希望額を計算する方法
- 設備資金の具体的な計算例
- 運転資金と設備資金を同時に申し込む場合
- 自己資金をどこまで使うか
- 予備資金を含める場合の考え方
- 既存借入れの返済を含めてよいのか
- 希望額の根拠として準備する資料
- 融資希望額を説明する回答例
- 希望額を決める際の注意点
- まとめ
融資希望額はどのように決めるのか
融資希望額は、次の順番で計算すると整理しやすくなります。
- 資金の具体的な使い道を洗い出す
- 支払いが発生する時期を確認する
- 売上代金などの入金時期を確認する
- 現在利用できる自己資金を確認する
- 最低限残しておきたい手元資金を決める
- 資金繰りが最も厳しくなる時点を確認する
- 不足額に合理的な予備資金を加える
基本的な考え方は、次のとおりです。
融資希望額=必要な支出+確保したい手元資金-入金予定-投入可能な自己資金
ただし、実際には支出と入金が同じ日に発生するとは限りません。
合計金額だけでなく、いつ支払い、いつ入金されるのかを月ごとに確認する必要があります。
そのため、融資希望額を決める際には資金繰り表を作成します。
東京信用保証協会は、毎月の資金の動きを一覧にすることで、当面の資金繰りや資金調達のタイミングを確認できる資金繰り表を公開しています。
多めに申し込めばよいとは限らない理由
資金不足を避けるために、必要額より多めに申し込みたいと考えることがあります。
しかし、希望額を大きくする場合は、少なくとも次の点を説明できる必要があります。
- 何に使用するのか
- いつ支払いが発生するのか
- なぜその金額が必要なのか
- 使わなかった資金をどのように管理するのか
- どのように返済するのか
- 毎月いくら返済できるのか
例えば、実際の支払予定が500万円しかないのに、明確な理由なく1,500万円を申し込むと、残り1,000万円の使い道について説明を求められる可能性があります。
また、借入額が増えれば、一般的には毎月の返済額や支払利息も増えます。
多く借りることが必ずしも安全とは限りません。借入後の返済負担まで含めて検討することが重要です。
少なすぎる申込みにも注意が必要
反対に、審査への不安から必要額より少なく申し込むことにも注意が必要です。
例えば、実際には1,000万円必要であるにもかかわらず、500万円だけ申し込んだ場合、残り500万円を調達できなければ計画していた支払いができません。
その結果、次のような問題が起こる可能性があります。
- 仕入代金を支払えない
- 外注費を支払えない
- 設備を導入できない
- 工事が途中で止まる
- 短期間で追加融資が必要になる
- 金利の高い資金調達へ頼る
- 税金や社会保険料の支払いが遅れる
金融機関へ遠慮して申込額を小さくするのではなく、必要額を正確に計算し、根拠資料とともに説明します。
希望額どおりの融資が難しい場合に備え、最低限必要な金額や、延期できる支出も整理しておくと対応しやすくなります。
運転資金の希望額を計算する方法
運転資金は、仕入代金、人件費、家賃、外注費など、事業を継続するために必要な資金です。
運転資金の希望額を決める方法には、大きく次の二つがあります。
経常的な必要運転資金から計算する
経常的に必要となる運転資金は、一般的に次の式で概算します。
必要運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務
売上債権には売掛金や受取手形、棚卸資産には商品や原材料、仕入債務には買掛金や支払手形などが含まれます。
この計算によって、日常の取引によってどの程度の資金が固定されているかを確認できます。
ただし、この金額がそのまま融資希望額になるわけではありません。
すでに自己資金や既存借入れで必要運転資金を確保できている場合もあるため、実際の現預金残高と今後の入出金を確認します。
資金繰り表から不足額を計算する
月ごとの入金と支払いを並べ、資金が最も減少する時点を確認します。
資金繰り表には、主に次の項目を記載します。
- 月初の現預金残高
- 売上代金の入金
- その他の収入
- 仕入代金の支払い
- 人件費
- 家賃
- 外注費
- 税金や社会保険料
- 借入金返済
- 設備代金
- 月末の現預金残高
融資を受けない場合の月末残高を計算し、最も残高が低くなる月の不足額を確認します。
資金繰り表は、単に融資申込みのためではなく、資金不足が発生する時期を事前に把握するためにも有効です。
運転資金の具体的な計算例
次の会社を例にします。
現在の状況
- 現在の預金残高:700万円
- 来月の売上入金:500万円
- 翌々月の売上入金:800万円
- 来月の仕入・外注費:900万円
- 翌々月の仕入・外注費:500万円
- 毎月の人件費・家賃等:250万円
- 毎月の借入金返済:50万円
- 3か月目の納税予定:200万円
- 最低限確保したい手元資金:300万円
簡略化して計算すると、次のようになります。
1か月目
月初残高700万円に、売上入金500万円を加えます。
支払いは、仕入・外注費900万円、人件費等250万円、借入金返済50万円です。
700万円+500万円-900万円-250万円-50万円=0円
1か月目の月末残高は0円です。
しかし、最低限確保したい手元資金が300万円であるため、この時点で300万円不足しています。
2か月目
融資を受けない場合、月初残高は0円です。
売上入金800万円に対し、仕入・外注費500万円、人件費等250万円、借入金返済50万円を支払います。
0円+800万円-500万円-250万円-50万円=0円
2か月目も残高は0円です。
3か月目
さらに納税予定200万円が加わるため、入出金の条件によっては200万円以上の不足が発生します。
この場合、最低限の不足額だけで考えると300万円ですが、3か月目の納税や入金遅延への対応も含めると、500万円程度の資金が必要になる可能性があります。
ただし、実際の希望額は、3か月目の売上入金、今後の支出、借入後の返済額なども含めて計算します。
「月商の3か月分」などと機械的に決めるのではなく、自社の入出金予定から算出することが重要です。
設備資金の希望額を計算する方法
設備資金の場合は、設備本体の価格だけでなく、導入までに必要となる関連費用も確認します。
主な費用は次のとおりです。
- 設備本体の購入代金
- 送料
- 設置費
- 工事費
- 試運転費
- ソフトウェア設定費
- 保守契約費
- 登録費用
- 車両の諸費用
- 不動産取得に伴う費用
- 消費税
- 既存設備の撤去費
- 導入後の原材料や人件費
見積書の税抜金額だけを見て希望額を決めると、消費税や設置費が不足する可能性があります。
設備投資を検討する場合は、最終的な支払総額と支払時期を見積書で確認してください。
設備資金の具体的な計算例
製造業者が新しい機械を導入するケースを考えます。
- 機械本体:1,200万円
- 設置工事:150万円
- 運送費:30万円
- 試運転・設定費:20万円
- 既存設備の撤去費:50万円
- 導入後の材料仕入れ:200万円
- 合計:1,650万円
- 投入可能な自己資金:350万円
単純計算では、次の金額が不足します。
1,650万円-350万円=1,300万円
したがって、融資希望額は1,300万円が一つの目安です。
ただし、自己資金350万円を投入することで、会社の預金がほとんど残らない場合は注意が必要です。
設備導入後にも、給与、家賃、既存借入金の返済などが発生します。
仮に手元へ最低300万円を残す必要がある場合は、自己資金として投入できる額を見直し、融資希望額を再計算します。
また、設備資金と材料仕入れに使用する運転資金を、申込書や計画書で分けて記載するよう求められる場合があります。
運転資金と設備資金を同時に申し込む場合
設備導入と同時に運転資金が必要になる場合は、それぞれを分けて計算します。
例えば、次のように整理します。
| 資金使途 | 必要額 |
|---|---|
| 機械本体 | 1,200万円 |
| 設置・運送・撤去費 | 250万円 |
| 導入後の材料仕入れ | 200万円 |
| 導入後3か月の追加人件費 | 150万円 |
| 必要資金合計 | 1,800万円 |
| 投入可能な自己資金 | 300万円 |
| 融資希望額 | 1,500万円 |
申込みでは、設備資金1,450万円、運転資金350万円、自己資金300万円というように、資金使途別の内訳を明確にします。
融資制度によっては、運転資金と設備資金で返済期間などの条件が異なる場合があります。申込み前に金融機関へ確認してください。
自己資金をどこまで使うか
自己資金がある場合でも、その全額を支払いに使えるとは限りません。
例えば、預金が500万円ある会社でも、翌月に給与200万円、税金100万円、借入金返済50万円が予定されていれば、自由に使用できる金額は限られます。
投入可能な自己資金は、次のように考えます。
投入可能な自己資金=現在の現預金-直近の確定支出-最低限残す資金
具体例は次のとおりです。
- 現在の現預金:800万円
- 直近1か月の確定支出:300万円
- 最低限残したい資金:250万円
この場合、投入可能な自己資金は次のようになります。
800万円-300万円-250万円=250万円
預金残高800万円のすべてを自己資金として扱うのではなく、支払予定と安全資金を差し引いて考えます。
予備資金を含める場合の考え方
将来の入金遅延や予想外の支出に備え、予備資金を含めたい場合があります。
予備資金を含めること自体が直ちに問題となるわけではありませんが、「念のため500万円」では計算根拠が分かりません。
例えば、次のように根拠を示します。
- 最大取引先の入金1か月分:300万円
- 設備修理に備える資金:100万円
- 原材料価格10%上昇分:80万円
- 合計予備資金:480万円
ただし、あらゆるリスクをすべて融資で補おうとすると、希望額が過大になる可能性があります。
発生可能性、金額、時期を整理し、通常の運転資金と予備資金を分けて説明します。
既存借入れの返済を含めてよいのか
新たに借りた資金を既存借入れの返済に使用したい場合は、単なる運転資金ではなく、借換資金として扱われる可能性があります。
既存借入れの返済を目的とする場合は、申込時に金融機関へ正確に伝えます。
無断で申告した資金使途と異なる用途へ使用することは避けてください。
借換えを検討する場合は、次の項目を比較します。
- 借換対象の残高
- 現在の毎月返済額
- 借換後の毎月返済額
- 現在の金利
- 借換後の金利
- 返済期間
- 利息総額
- 保証料
- 手数料
- 担保・保証条件
毎月の返済額が減っても、返済期間が長くなり、利息や保証料を含む総負担が増える場合があります。
自治体や信用保証協会が借換えに利用できる制度を設けている場合もありますが、対象要件や条件は地域・時期によって異なります。
希望額の根拠として準備する資料
融資希望額を説明するために、次の資料を準備します。
運転資金の場合
- 資金繰り表
- 月別売上表
- 売掛金一覧
- 買掛金一覧
- 在庫一覧
- 受注書
- 契約書
- 発注書
- 給与支払予定
- 納税予定
- 借入金一覧表
- 預金通帳
設備資金の場合
- 見積書
- 契約書
- 注文書
- 設備のカタログ
- 工事明細
- 不動産資料
- 賃貸借契約書
- 設備導入後の収支計画
- 設備導入後の資金繰り表
- 自己資金を確認できる資料
複数の見積書がある場合は、どの業者を選ぶ予定か、その理由も整理します。
資金使途の合計、自己資金、融資希望額は、申込書、資金繰り表、事業計画書の間で一致させます。
融資希望額を説明する回答例
売上増加に伴う運転資金
「新規受注に伴い、今後3か月で材料費600万円、外注費300万円、人件費150万円の合計1,050万円が先行して発生します。売上代金の入金は工事完成後の4か月目で、投入できる自己資金は250万円です。そのため、差額の800万円を運転資金として申し込みます」
売掛金の回収期間に対応する資金
「月商は約600万円で、売上代金の回収まで平均2か月かかります。一方、仕入代金は1か月後に支払うため、約1か月分の資金が先行します。現在の現預金と固定費を踏まえ、資金繰り表で最大700万円の不足が見込まれるため、700万円を申し込みます」
設備資金
「機械本体が1,200万円、設置費が150万円、運送・設定費が50万円で、設備関連の合計は1,400万円です。自己資金300万円を投入し、残り1,100万円を設備資金として申し込みます。導入後の材料仕入れ200万円は手元資金で対応します」
最低限の手元資金を残す場合
「現在の預金残高は800万円ですが、翌月に給与・仕入れ・税金の合計400万円を支払う予定です。さらに通常1か月分の固定費200万円を手元に残す必要があるため、設備購入に投入できる自己資金は200万円と計算しています」
希望額を決める際の注意点
売上計画を過大にしない
将来の売上入金を多く見積もると、実際には資金が不足する可能性があります。
確定受注と見込み案件を分け、確度の低い売上は慎重に扱います。
経済産業省のローカルベンチマークでは、財務情報と非財務情報を用いて、自社の経営状態を把握するためのツールが公開されています。過去の売上や利益の推移を確認し、計画の前提を検討する際に利用できます。
入金遅延を考慮する
売掛金が予定日に必ず入金されるとは限りません。
特定の取引先に売上が集中している場合は、その取引先からの入金が遅れたケースも試算します。
借入後の返済を反映する
融資を受けると、その後は元金返済と利息支払いが始まります。
融資前の資金繰り表だけでなく、返済開始後の資金繰り表も作成します。
消費税を確認する
設備の見積金額が税抜表示か税込表示かを確認します。
消費税分を見落とすと、実際の支払時に資金が不足する可能性があります。
支払時期を確認する
設備代金が契約時、納品時、設置完了時などに分割される場合があります。
総額だけでなく、支払日ごとの金額を確認します。
融資実行前の発注・支払いに注意する
制度によっては、融資決定前または申請前に設備を発注・購入すると対象外になる場合があります。
設備を先に契約する必要がある場合は、必ず申込先へ確認してください。
融資希望額を3段階で整理する方法
希望額を決める際は、次の3段階に分けておくと、金融機関との相談時に対応しやすくなります。
希望額
予定どおり事業を進め、一定の手元資金も確保するために必要な金額です。
最低必要額
これを下回ると、予定している支払いや事業計画を実行できない金額です。
減額された場合の対応案
融資額が希望額を下回った場合に、次のような対応が可能か確認します。
- 設備を段階的に導入する
- 一部の支出を延期する
- 発注量を調整する
- 追加の自己資金を投入する
- ほかの金融機関へ相談する
- 取引先と支払条件を協議する
- 設備仕様を見直す
ただし、最低必要額を下回ると計画自体が成立しない場合は、その理由を明確に伝えます。
まとめ
融資希望額は、借りられそうな金額や切りのよい数字から決めるのではなく、必要な支出と入出金時期から計算します。
基本的な考え方は次のとおりです。
融資希望額=必要な支出+確保したい手元資金-入金予定-投入可能な自己資金
運転資金の場合は、資金繰り表を作り、資金残高が最も少なくなる時点の不足額を確認します。
設備資金の場合は、設備本体だけでなく、設置費、運送費、工事費、消費税、導入後の運転資金も確認してください。
また、現在保有している預金の全額を自己資金として使用すると、設備導入後や融資実行までの支払いに対応できなくなる可能性があります。
次の金額を分けて整理することが重要です。
- 現在の現預金
- 直近の確定支出
- 投入可能な自己資金
- 最低限残したい手元資金
- 必要な運転資金
- 必要な設備資金
- 合理的な予備資金
- 融資希望額
- 最低必要額
計算した希望額は、資金繰り表、見積書、契約書、受注書などの資料を使って説明できるようにしましょう。


