在庫が資金繰りを悪化させる理由|過剰在庫を見つける計算方法と改善策
在庫は、将来販売するために必要な会社の資産です。
しかし、在庫を仕入れた時点で現金は支出される一方、その在庫を販売し、代金を回収するまでは現金が戻ってきません。在庫が増えすぎると、損益計算書では利益が出ていても、手元資金が不足することがあります。
特に製造業、卸売業、小売業、飲食業では、欠品を避けようとして仕入れを増やした結果、多額の資金が在庫として固定されるケースがあります。
本記事では、在庫が資金繰りを悪化させる仕組み、確認する指標、過剰在庫を減らす具体的な方法を解説します。
※本記事は一般的な情報を整理したものです。在庫の会計処理や評価損、廃棄損の税務上の取扱いについては、税理士などへ個別にご確認ください。
この記事の要点
- 在庫を仕入れると現金は減りますが、販売・回収するまでは現金に戻りません。
- 在庫が増えるほど、保管費、廃棄損、値下げなどの負担も増えます。
- 在庫回転期間は、原則として売上高ではなく売上原価を基準に確認します。
- 在庫削減は、すべての商品を一律に減らすのではなく、商品別に判断します。
- 欠品を防ぎながら、発注量・発注頻度・安全在庫を見直すことが重要です。
目次
- 在庫が資金繰りを悪化させる仕組み
- 在庫は資産なのになぜ問題になるのか
- 在庫が1,000万円増えた場合の具体例
- 在庫回転期間の計算方法
- 在庫増加の原因を見分ける方法
- 業種別に注意したい在庫
- 過剰在庫を減らす具体的な手順
- 在庫削減で避けたい失敗
- 金融機関が在庫を見る際のポイント
- まとめ
在庫が資金繰りを悪化させる仕組み
商品の仕入れから代金回収までの資金の流れは、一般的に次のようになります。
現金支出→仕入れ・製造→在庫→販売→売掛金→現金回収
現金で仕入れ代金を支払っても、購入した商品が販売されるまでは現金に戻りません。
掛けで仕入れた場合も、販売前に買掛金の支払期日が来れば、売上代金を回収する前に現金を支払う必要があります。
例えば、次のような流れです。
- 4月に商品を500万円で仕入れる
- 5月末に仕入代金500万円を支払う
- 6月に商品を販売する
- 売上代金は8月末に入金される
この場合、5月末に500万円を支払ってから、8月末に売上代金を回収するまで約3か月あります。
その間の人件費、家賃、運送費、借入返済などは、別の手元資金で支払わなければなりません。
商品が予定どおり売れなければ、現金に戻るまでの期間はさらに長くなります。
在庫は資産なのになぜ問題になるのか
在庫は貸借対照表の資産に計上されます。そのため、在庫が増えても、仕入金額の全額がすぐに損益計算書上の費用になるとは限りません。
しかし、会計上の資産であっても、そのままでは給与、税金、家賃などの支払いには使えません。
現金が在庫へ置き換わる
現金1,000万円を使って商品を仕入れると、会社の資産総額が直ちに1,000万円減るとは限りません。
現金が1,000万円減り、代わりに在庫が1,000万円増えるためです。
ただし、支払いに使える現金は減っています。
保管費用が発生する
在庫を維持するには、次の費用がかかります。
- 倉庫家賃
- 光熱費
- 保険料
- 入出庫作業の人件費
- 在庫管理システムの費用
- 棚卸作業の費用
- 運送・移動費
- 盗難や破損への対策費
在庫の取得金額だけでなく、保有している間の費用も考える必要があります。
商品価値が低下する
時間の経過によって、在庫の販売価値が下がる場合があります。
- 流行が終わる
- 新商品が発売される
- 使用期限・賞味期限が近づく
- 品質が劣化する
- 規格や法令が変更される
- 顧客の仕様が変更される
- 季節商品が売れ残る
- 部品が旧型になる
帳簿上は在庫が残っていても、通常価格で販売できなければ、実際の価値は帳簿価額より低い可能性があります。
企業会計基準委員会の「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、棚卸資産の取得原価や正味売却価額など、在庫評価の基本的な考え方が示されています。
借入金で在庫を保有すると利息が発生する
仕入資金を金融機関から借りている場合、在庫が売れずに残っている間も借入利息が発生します。
在庫回転が遅くなるほど、資金調達コストの負担も長くなります。
在庫が1,000万円増えた場合の具体例
次の会社を例に考えます。
- 年間売上高:1億円
- 年間売上原価:6,000万円
- 期首在庫:1,000万円
- 期末在庫:2,000万円
- 売掛金や買掛金など、ほかの条件は変わらない
在庫は1年間で1,000万円増えています。
在庫増加分を現金で仕入れている場合、単純化すると、在庫増加によって手元資金が1,000万円減ったと考えられます。
損益計算書で利益が500万円出ていても、在庫増加による資金流出が1,000万円あれば、ほかの条件が同じ場合、現金は500万円減る可能性があります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 税引後利益 | 500万円 |
| 在庫増加による資金負担 | ▲1,000万円 |
| 単純化した資金増減 | ▲500万円 |
さらに、借入元金の返済や設備購入があれば、現金は一層減少します。
「黒字なのに資金がない」という場合は、売掛金だけでなく、在庫の増加も確認しましょう。
在庫回転期間の計算方法
在庫が何か月分あるかを確認する指標が、棚卸資産回転期間です。
月数で計算する場合の一般的な算式は次のとおりです。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷月平均売上原価
月平均売上原価は、年間売上原価を12か月で割って計算します。
計算例
- 棚卸資産:1,200万円
- 年間売上原価:4,800万円
- 月平均売上原価:400万円
計算は次のとおりです。
1,200万円÷400万円=3か月
この会社は、売上原価のおおむね3か月分に相当する在庫を保有していることになります。
前年と比較する
同業他社との比較だけでなく、自社の前年実績と比較することも重要です。
| 年度 | 棚卸資産 | 月平均売上原価 | 回転期間 |
|---|---|---|---|
| 前年 | 800万円 | 400万円 | 2か月 |
| 当年 | 1,200万円 | 400万円 | 3か月 |
売上原価が変わっていないのに、在庫回転期間が2か月から3か月へ伸びています。
この場合、通常より1か月分に相当する400万円が追加で在庫に固定されていると考えられます。
回転期間が長ければ必ず悪いわけではない
必要な在庫量は業種や事業モデルによって異なります。
- 海外から仕入れ、納品まで数か月かかる
- 欠品が重大な損失につながる
- 季節前に商品を確保する必要がある
- 特注品の材料を事前に準備する
- 災害や供給停止に備えて安全在庫を持つ
こうした事情があれば、一定量の在庫を持つ合理性があります。
重要なのは、在庫回転期間の数字だけで良否を決めることではありません。在庫が増えた理由と、いつ販売・使用できるのかを説明できる状態にすることです。
在庫増加の原因を見分ける方法
売上増加に備えた正常な増加
売上が伸びており、その増加に合わせて必要な在庫が増えたケースです。
この場合も資金は必要になりますが、販売計画と回収計画が明確であれば、増加運転資金として説明しやすくなります。
売れ残りによる増加
売上計画を下回り、仕入れた商品が残っているケースです。
次の兆候が見られます。
- 売上が減っているのに在庫が増えている
- 在庫回転期間が長くなっている
- 古い商品が倉庫に残っている
- 値下げしなければ売れない商品が多い
- 特定の商品だけが大量に残っている
過剰発注による増加
値引きや最低発注量を優先して、必要以上に仕入れているケースです。
まとめ買いで仕入単価が下がっても、保管費、借入利息、廃棄リスクを含めると、結果的に負担が増えることがあります。
発注と販売情報が連携していない
営業部門、購買部門、倉庫、経理の情報が分かれていると、すでに在庫がある商品を重複して発注する場合があります。
また、販売終了や仕様変更の情報が購買担当者へ伝わらず、不要な商品を仕入れてしまうこともあります。
帳簿在庫と実在庫が一致していない
破損、盗難、入力漏れ、出荷処理の誤りなどによって、帳簿上の在庫と実際の在庫が異なる場合があります。
定期的に実地棚卸を行い、差異の原因を確認する必要があります。
不動在庫が通常在庫に含まれている
何年も動いていない商品が、販売可能な通常在庫と同じように管理されているケースです。
在庫を保有期間別に分けると、問題を把握しやすくなります。
- 30日以内
- 31~90日
- 91~180日
- 181~365日
- 1年超
業種や商品の特性に合わせて期間を設定してください。
業種別に注意したい在庫
製造業
製造業では、次の在庫を分けて管理します。
- 原材料
- 仕掛品
- 半製品
- 完成品
- 補修部品
- 消耗品
完成品だけを見ていると、製造途中の仕掛品に多額の資金が固定されていることを見落とす可能性があります。
受注が止まっている製品の原材料や、旧型製品専用の部品にも注意が必要です。
卸売業
取扱商品が多く、商品ごとの販売頻度に差が出やすい業種です。
売上上位の商品だけでなく、長期間出荷されていない商品を抽出します。
メーカーや仕入先ごとの最低発注量、返品条件、納品期間も確認しましょう。
小売業
店舗ごとに在庫が分散すると、全社では在庫があるのに、必要な店舗で欠品する場合があります。
店舗間移動、値下げ時期、季節商品の処分時期をあらかじめ決めておく必要があります。
飲食業
食材には賞味期限や品質劣化があるため、在庫過多が直接的な廃棄損につながります。
食材別に使用量、廃棄量、歩留まりを確認し、メニュー別の販売実績と発注量を連動させます。
建設業
一般的な商品在庫だけでなく、工事に投入した材料費や外注費などが未成工事支出金として計上される場合があります。
長期間動いていない工事や、採算が悪化している工事がないかを確認しましょう。
過剰在庫を減らす具体的な手順
1.商品別の在庫一覧を作る
最低限、次の項目を一覧にします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品・材料名 | 在庫を識別する名称 |
| 商品コード | 管理番号 |
| 在庫数量 | 現在の実在庫 |
| 在庫金額 | 帳簿上の金額 |
| 最終仕入日 | 最後に仕入れた日 |
| 最終販売・使用日 | 最後に動いた日 |
| 月間販売数量 | 一定期間の平均 |
| 発注残 | 注文済みで未入荷の数量 |
| 受注残 | 注文を受けて未出荷の数量 |
| 納品リードタイム | 発注から入荷までの日数 |
| 保管場所 | 倉庫・店舗など |
| 状態 | 通常・滞留・破損・廃棄予定 |
帳簿の金額だけでなく、実際の数量と最終移動日を把握することが重要です。
2.ABC分析を行う
販売額や粗利益への貢献度に応じて、商品を分類します。
- Aランク:売上や利益への貢献が大きい
- Bランク:中程度
- Cランク:貢献が小さい
Aランク商品は欠品を防ぎながら重点的に管理します。
Cランク商品は、品目数が多い割に売上への貢献が小さい場合があります。発注停止、取寄せ販売、取扱終了などを検討します。
ただし、Cランクでも主要商品の販売に必要な補完商品や、重要顧客向けの商品である可能性があります。金額だけで機械的に廃止しないようにしましょう。
3.滞留在庫を分ける
通常在庫と滞留在庫を同じ棚・同じ一覧で管理すると、問題が見えにくくなります。
一定期間動いていない商品を抽出し、次の対応を決めます。
- 通常価格で販売する
- 値下げ販売する
- セット商品にする
- 他店舗・他拠点へ移動する
- 仕入先へ返品する
- 他の商品へ転用する
- 廃棄する
値下げや廃棄を行うと損失が生じる場合がありますが、売れない在庫を保管し続けても現金には戻りません。
4.発注点と発注量を見直す
発注点は、在庫が一定量まで減った際に追加発注する基準です。
簡易的には、次の考え方があります。
発注点=平均使用量×納品までの日数+安全在庫
例えば、1日平均10個を販売し、発注から納品まで7日、安全在庫を30個持つ場合は次のようになります。
10個×7日+30個=100個
在庫が100個になった時点で発注する設計です。
ただし、需要変動、納品遅延、最低発注量などを考慮して調整する必要があります。
5.発注頻度を増やし、1回の発注量を減らす
月1回まとめて発注しているものを、月2回や毎週へ変更できれば、平均在庫を減らせる可能性があります。
ただし、次の費用との比較が必要です。
- 配送料
- 発注事務の負担
- 小口発注による単価上昇
- 納品作業の増加
- 欠品リスク
仕入単価だけでなく、保管費や資金負担を含めた総費用で判断しましょう。
6.仕入先と条件を交渉する
次の条件を相談できる場合があります。
- 最低発注量の引下げ
- 分納
- 納品頻度の増加
- 返品可能な範囲
- 委託在庫
- 支払条件の延長
- 需要に応じた追加発注
- 仕入先による在庫保有
すべての仕入先が対応できるわけではありませんが、継続的な取引量や販売計画を示すことで交渉しやすくなる場合があります。
7.販売・発注・在庫情報を共有する
営業担当者が受注見込みを把握していても、購買担当者へ共有されなければ適切な発注はできません。
少なくとも次の情報を定期的に共有します。
- 実際の販売数量
- 今後の受注見込み
- 大口案件の予定
- 販売終了商品
- 仕様変更
- 発注済みの商品
- 現在庫
- 滞留在庫
- 納品遅延
小規模な会社でも、表計算ソフトなどを使い、同じ一覧を見るだけで重複発注を減らせます。
8.月別の資金繰り表へ仕入計画を反映する
在庫削減は数量管理だけでは不十分です。
仕入代金をいつ支払い、販売代金をいつ回収できるのかを資金繰り表へ反映します。
東京信用保証協会は、毎月の資金の動きから資金不足の時期や調達のタイミングを確認できる資金繰り表を公開しています。
在庫削減で避けたい失敗
一律に在庫を減らす
すべての商品を同じ割合で減らすと、売れ筋商品まで欠品し、売上を失う可能性があります。
商品別の販売頻度、粗利益、納品期間、重要性を確認して判断します。
安売りだけで処分する
値下げによって現金化を急ぐ方法は有効ですが、通常商品まで頻繁に値下げすると、顧客が定価で購入しなくなる可能性があります。
対象、期間、販売経路を限定するなどの工夫が必要です。
帳簿上だけ在庫を減らす
帳簿から除却しても、商品が倉庫に残ったままでは保管費や管理負担は解消しません。
廃棄、返品、売却など、現物の処理まで完了させます。
税務上、在庫の評価損や廃棄損が認められるかどうかは、商品の状態や証拠書類などによって判断が異なります。処分前に税理士へ確認し、写真、廃棄証明書、社内承認記録などを残しましょう。
欠品リスクを無視する
在庫を減らしすぎると、納品できずに顧客を失う可能性があります。
単に在庫金額を小さくするのではなく、「必要な在庫を、必要な場所に、必要な量だけ持つ」状態を目指します。
金融機関が在庫を見る際のポイント
金融機関へ融資を申し込む際は、決算書や試算表に計上された在庫について説明を求められる場合があります。
特に在庫が前年より大きく増えている場合は、次の点を整理しておきましょう。
- 在庫が増えた理由
- 商品・材料別の内訳
- 正常在庫と滞留在庫の区分
- 販売・使用予定
- 受注との対応関係
- 実地棚卸の実施状況
- 帳簿在庫と実在庫の差異
- 値下げや廃棄が必要な在庫
- 今後の削減計画
- 在庫増加に必要な運転資金額
例えば、「売上増加に備えて在庫が1,000万円増えました」と説明するだけでは、正常な増加か、売れ残りかが分かりません。
次のように数字で説明できる状態が望ましいです。
- 新規受注に対応する原材料:600万円
- 通常販売用の増加分:250万円
- 長期滞留在庫:150万円
- 滞留在庫のうち100万円は値下げ販売予定
- 残り50万円は廃棄・転用を検討中
在庫の内容と処分・販売方針を整理すると、必要運転資金の根拠も説明しやすくなります。
在庫管理と会計処理は分けて考える
経営上の在庫管理と、会計・税務上の棚卸資産評価は関連していますが、目的が異なります。
経営管理では、次の点を重視します。
- どの商品が売れているか
- いつから動いていないか
- 現金化できるか
- 欠品の可能性があるか
- 資金がどれだけ固定されているか
会計・税務では、取得原価、評価方法、評価損、廃棄損などの適切な処理が必要です。
棚卸資産の評価方法を変更する場合には、一定の手続が必要になる場合があります。国税庁は、法人が既に選定している棚卸資産の評価方法を変更する際の承認申請について案内しています。
在庫を減らしたいからといって、帳簿価額を任意に引き下げられるわけではありません。会計・税務処理は専門家へ確認してください。
まとめ
在庫は事業に必要な資産ですが、販売して代金を回収するまでは支払いに使える現金になりません。
在庫が増えすぎると、次の問題が発生します。
- 手元資金が減る
- 借入金や利息負担が増える
- 倉庫費や管理費が増える
- 値下げや廃棄のリスクが高まる
- 商品の劣化や陳腐化が進む
- 在庫確認や棚卸の負担が増える
在庫改善は、次の順番で進めましょう。
- 商品別・材料別の在庫一覧を作る
- 実地棚卸で数量を確認する
- 在庫回転期間を前年と比較する
- 在庫を販売頻度や保有期間で分類する
- 滞留在庫の販売・返品・転用・廃棄方針を決める
- 発注点と発注量を見直す
- 仕入先と最低発注量や分納を相談する
- 仕入代金と売上入金を資金繰り表へ反映する
在庫削減の目的は、在庫をゼロにすることではありません。
販売機会を失わない範囲で過剰在庫を減らし、在庫として固定されている資金を事業に使える現金へ戻すことが重要です。
参考資料
- 企業会計基準委員会「棚卸資産の評価に関する会計基準」
- 国税庁「棚卸資産の評価方法の変更の承認申請」
- 東京信用保証協会「経営サポートツール」
- 経済産業省「ローカルベンチマーク」
- 日本政策金融公庫「『資金繰りが不安』から抜け出す」
※在庫評価や廃棄損などの取扱いは、会社の状況や適用する会計・税務基準によって異なります。実際の処理は税理士などへご確認ください。




